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鳥類画家・神戸宇孝のフィールドスコープ旅行記 連載第1回 <渡り鳥観察のメッカ、山形県飛島へ!>

はじめに
スワロフスキーオプティックのサイトをご覧の皆さん、こんにちは。鳥類画家の神戸宇孝です。私は幼稚園の頃に野鳥観察に興味を持ち、野鳥図鑑を広げては、憧れの野鳥に会いに行くことを夢見ておりました。今、年間の多くの時間をバードウォッチングに費やすようになり、日本全国へ出かける日々です。そんな移動の多い私が最近手に入れた相棒「スワロフスキー フィールドスコープATC」は、旅先で大活躍しています。その様子を紹介していくことで、皆さんにこのATCスコープの魅力を感じていただければ幸いです。

飛島へATCを持っていくメリットは?

私の住む関東地方から山形県酒田市の飛島へ向かう際は、飛行機で羽田から山形空港へ行き、バスに乗って山形市内に入り、その後徒歩かタクシーで酒田港へ向かい、島へ入ります。
今回は5月のゴールデンウィークの4日間の滞在で、観察道具に加え、着替えや防寒具なども準備をしていきました。キャリーケースとリュックを移動に持って行ったのですが、飛行機の預け荷物にやはり光学機器は入れるのは不安があり、荷物に双眼鏡とカメラもある中で、ATCはリュックの中で嵩張らない上に軽量なので、今回の移動は本当に楽でした。

公共交通機関での長距離移動は、機材を運ぶうえで慎重にしたいもの。リュックに双眼鏡とカメラに加え、スコープが入って、まだ余裕があったのはとてもありがたいです 。

キビタキの黄色に感激!

飛島の林の中を歩いて、数が多く会えた渡り鳥の一つはキビタキです。海を越えて渡ってきているために、空腹を満たすための採餌に夢中だったり、疲労でじっとしている時間が長くなります。できる限り鳥たちの長旅の邪魔をしないためには、やはり無理に近づくことを控えたいもの。そこでATCのズーム機能(17〜40倍)が威力を発揮しました。

キビタキ

傾斜型でスムーズに鳥を捉えるには?

私は傾斜型を以前から愛用しているので、野外で「どうしたら傾斜型でも素早く捉えられるようになりますか?」と、よく質問されます。私も茂みの中の小鳥や動き回る鳥をスコープで捉えることに時間がかかることもしばしばではありますが、「肉眼で見えるわかりやすい目印を早く視野内に見つけ、その場所から鳥の位置へ辿るルートを見つけること」と答えています。

実際に飛島で観察したツグミで、私の“辿り方”をお伝えします。

双眼鏡でツグミを発見(A)。位置を肉眼で確認し、目印になるものを探す。

スコープのズームを17倍にし、黄色い下向き矢印で示している“他の枝よりも葉が少ない枝先”に注目、そこからスコープを→→→と、右へ水平移動させる。

右斜め下の枝を伝っていけば、ツグミに到着!

キーポイントは、ツグミの上にある枝先を目印にしないことです。これらの枝先は葉の量や枝先に特徴が乏しく、自分が望遠鏡で捉えた枝先の葉とツグミの位置関係を把握しにくいためです。下向き矢印の枝は葉のつき方が他のものより少なく、望遠鏡で捉えた枝が目印の枝かどうかの判断がしやすいです。

もちろん扱いには多少の慣れが必要です。私にとって新しい機材であるATCは、これまで使っているATSと視野の広さが違う(対物レンズが大きいATSよりATCは視野が狭くなる)ため、購入直後は野外で使うと捉えにくい時期が、もちろんありました。まずは遠くのものを捉える訓練を身近な環境でトライしていくと、傾斜型で目標を捉えることも上達するでしょう。

最初は、1.遠くの鳥海山、2.の岩、3.の岩くらいの距離のものを対象にして、捉える練習していくと良いでしょう。私は最初に買った傾斜型の望遠鏡は、海岸から海鳥を観察するために購入したので、実際の鳥の位置と予測でスコープを向けた位置との差が把握しやすく、これが傾斜型に慣れる良い訓練になったと思っています 。

島ならではの光景を楽しむ〜その1
普段は同時に見ることのない鳥を一緒に見ることがあるのも、島のバードウォッチングのおもしろさです。

島ならではの光景を楽しむ〜その2

島の観察では、日本での記録の少ない珍しい鳥が見られることがあります。今回の旅では、コホオアカ、アカマシコなどが見られました。

コホオアカ。以前訪問したときは群れを観察できたのですが、今回は単独個体の観察でした。飛来数が少なかったようです。

アカマシコ。雄成鳥は全身が名前の通り赤いのですが、この鳥は☥タイプと呼ばれ、バードウォッチャーからは「茶マシコ」と呼ばれていました。

島ならではの光景を楽しむ〜その3

飛島での観察では、普段は冬羽で見ることが多い鳥が夏羽だったり、色が冬に見るよりも鮮やかな個体を見ることも楽しみの一つです。

カシラダカの夏羽は冬の茶色がベースの羽毛と違い、頭の黒白が本当に綺麗です。

ベニヒワ。日本では年によって飛来数に増減があります。冬鳥として飛来するので、背景が緑色なのは新鮮でしたし、やはり頭部の赤い羽が冬に見るよりもの光沢が増しているような印象を受けました。

世界最北のカラスバト

飛島にはカラスバトという全身が黒い大形のハトが生息をしています。警戒心が非常に強い鳥なので、止まっている姿を見るのは簡単ではないのですが、今回は夕方に2回観察する機会がありました。双眼鏡で見つけた後にATCで捉えて、この貴重な機会を皆でじっくり観察しました。

急斜面の太い枝に止まるカラスバト。夕方で遠方だったので、画像が荒くなってしまいましたが、ATCの観察ではしっかりクリアで、身体の所々に見られる紫色や緑色の金属の光沢はとても綺麗でした。

日本周辺にしか生息していない世界的に大変貴重なハトですが、大変警戒心が強いために、生態には不明な点も多い鳥の一つです。2019年に飛島で交尾行動が確認されて、繁殖の可能性が高まっています。巣や雛が確認されれば世界最北の繁殖地となりますが、現在は未確認のようです。いつか素晴らしい発見がされることを期待しています。

早朝からの観察で

早朝からの観察で滞在中は、島の中を歩き回り(1日20km以上歩いた日もありました)、いろんな鳥を観察できた今回の飛島訪問でしたが、島の木々の芽吹きや草の成長が早まっているのか、葉の陰や茂みに鳥に鳥がいて姿を見ることが難しく感じる場面が多々ありました。また、心なしか鳥の数も少なめのように感じました。地球の気候が大きく変動していることが、鳥たちの移動に何か悪い影響を与えていないか、とても心配になりました。

島の夜明け。夜には星空もとても綺麗でした。

それでも、コルリやクロツグミなど、心踊る鳥たちとの出会いもありましたし、島に住み着いているハヤブサのペアの仲睦まじい様子も、久しぶりに飛島へ来て良かったと思う光景でした。

コルリ。暗い場所を好むので姿を見るのは難しいのですが、この日は道路に出て餌を探していました。

クロツグミ。茂みの中からあまり出てこない場面が多かったですが、葉が揺れている場所をじっと見つめていると、チラッ、チラッと見えました。そんな場面でも望遠鏡で見られると嘴の黄色がはっきり見えて嬉しいものです。

島の中の崖を住処としているハヤブサ。獲物を持って崖に向かうシーン

島に住む方々と鳥たちへの敬いを

飛島はたくさんの種類の鳥に出会えるバードウォッチャーには夢のような場所で、つい張り切り過ぎてしまうこともあるでしょう。しかし、飛島にお住いの方々がいらっしゃいます。珍しい鳥がいるからと言って道を外れたり、勝手に農地に入るのは絶対にやめましょう。

コサメビタキ

また、飛島で繁殖している鳥もいますので、彼らの生活を乱すようなこと(例:巣材運びのシーンを写真に撮りたいからといって居座る、など)は最低限のマナーとして、控えたいものです。

島の様々な場所で巣作りをしていたイソヒヨドリ

直接的に声をかけられることはなくても、地元の方々に「また来てね」と思ってもらえるバードウォッチングを心がけていただけたら、一人の鳥好きとして、一人の地方出身者として、とても嬉しく思います。

島の中のヘリポートは、島の皆さんの命を守る大切な場所

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