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鳥類画家・神戸宇孝のフィールドスコープ旅行記 連載第3回<鳥を求めて、北関東へ>

はじめに
スワロフスキーオプティックのサイトをご覧の皆さん、こんにちは。鳥類画家の神戸宇孝です。私は幼稚園の頃に野鳥観察に興味を持ち、野鳥図鑑を広げては、憧れの野鳥に会いに行くことを夢見ておりました。今、年間の多くの時間をバードウォッチングに費やすようになり、日本全国へ出かける日々です。そんな移動の多い私が最近手に入れた相棒「スワロフスキー・オプティック フィールドスコープ ATC 17-40×56」は、旅先で大活躍しています。その様子を紹介していくことで、皆さんにこのATCスコープの魅力を感じていただければ幸いです。

山に鳥の姿がない…

2024年の秋から2025年の冬は、非常に鳥の姿が少ない年となっています。2010年代には、11月になると里山の雑木林には大陸から渡ってきたツグミなどの冬鳥が群れで飛来してきて、私はその姿に感激していたのですが、近年が12月に入っても姿がほとんど見られなかったり、確認できても数が非常に少なかったりという印象を受けることが多くなりました。

大きな群れを見ることが少なくなってきたツグミ
大きな群れを見ることが少なくなってきたツグミ

私はそのような状況の時は、水辺へ行き、カモ類などを観察する機会が増えます。今回は相棒の「スワロフスキー・オプティック フィールドスコープ ATC 17-40×56」に加え、「EL42 SWAROVISION WB(8.5×42)」を車に積み込んで、今回は北関東のお気に入りスポットの多々良沼と渡良瀬遊水地を巡りました。車移動ならばスコープは小さいATCではなくても良いのでは?というご意見があるかもしれませんが、現地では車を降りて100-400mmズームレンズ装着のミラーレスカメラやスケッチ用画材(野外で野鳥を描くのも好きなので、水彩色鉛筆、鉛筆、スケッチブックなど)を一緒に持ち歩くことも多々あるので、やはり「軽量 + コンパクト」は、私には大事な要素です。

多々良沼に到着。早速ハクチョウの群れを発見。
多々良沼に到着。早速ハクチョウの群れを発見。

鳥の個性の観察に重宝するズーム機能

バードウォッチングの楽しみ方の一つに、「たくさんの種類を見る」というものがありますが、私は「個性」を観ることに集中することもしばしばです。特にハクチョウ類は嘴の模様に個体差があり、そのバリエーションを観るのが、私はとても楽しいです。

多々良沼では、オオハクチョウとコハクチョウが群れていました
多々良沼では、オオハクチョウとコハクチョウが群れていました

実は野鳥の描き方を学ぶために留学していた際、英国の野鳥と自然環境の保護団体であるWaterfowl and Wetland Trust(WWT)の方から、嘴の模様でハクチョウの個体識別の研究を長年していることを聞き、日本に帰ってきてからハクチョウの嘴の模様をじっくりと観察するようになりました。軽量でありながら40倍のズーム機能があるATCは、その模様の違いを詳細に観察するのに大変役立ちます。現地では、観察しやすい個体を見つけて、早速スケッチを開始。

ハクチョウのスケッチ 01
ハクチョウのスケッチ 01
ハクチョウのスケッチ 02
ハクチョウのスケッチ 02

ATCの鮮明なズームのおかげで、このような詳細な模様を確認することができました。特徴的な個体も見つけることができましたので、今後多々良沼に来る際には、前に出会ったハクチョウに再会できることも楽しみになりました。

突然の緊張。ハヤブサ出現!

ハクチョウの嘴ばかり見ていたのですが、ふとハクチョウが首を伸ばして緊張をし始めました。周囲を見渡すと、カラスも大騒ぎです。視界の広いEL8.5×42で急降下してくる鳥を捉えると、なんとハヤブサでした。

翼の先端が尖っているハヤブサ
翼の先端が尖っているハヤブサ

現れたハヤブサが地上に降りたのでATCで観察すると、背中に褐色みがあり、まだ若い個体であることがわかりました。少しの時間、地面で佇んでいたのですが、その横をハクセキレイが呑気に歩いていくこともあり、それをじっと恨めしそうに見つめている姿にも、どこか幼さが感じられました

カラスの攻撃をかわした後、地面に降りて一休み。しばらくして飛び去りました。
カラスの攻撃をかわした後、地面に降りて一休み。しばらくして飛び去りました。

ハクチョウたちが休み始めてしまった

ハヤブサが飛来したことが原因だったのか、ハクチョウたちは水の中へ移動を開始。私は後をついていったのですが、移動先で肝心の模様のある部分を背中へ入れてそこで寝始めてしまいました。自分たちに危害はなかったものの、やはり緊張して疲れたのでしょう。ゆっくり休んでもらうためにも、私の嘴観察もここで終えることしました。

微睡み始めたハクチョウたち
微睡み始めたハクチョウたち

空が騒がしい!

次に何を観察しようか迷っていたところ、また空からカラスの声が聞こえてきました。見ると上空に、カラスの大群!聞き慣れたハシブトガラスやハシボソガラスの声とはやや異なって聞こえました。おそらくミヤマガラスでしょう。以前は主に九州に飛来する冬鳥でしたが、2000年代になって関東平野にも飛来するようになった鳥です。

飛翔するミヤマガラスの群れ。ハシブトガラスやハシボソガラスよりも、風を巧みに使って、流れるように飛ぶことが多い
飛翔するミヤマガラスの群れ。ハシブトガラスやハシボソガラスよりも、風を巧みに使って、流れるように飛ぶことが多い。

飛び去った方向へ

関東でも安定的に観察の機会が得られるようになったミヤマガラスですが、冬季のみに観察できるカラスですから、このチャンスを逃したくないと思い、飛び去った方向へ足を運ぶと、田んぼで採餌する姿を見つけました。

ミヤマガラスの群れ
ミヤマガラスの群れ

コクマルガラスに会いたい

ミヤマガラスの群れを見つけると、私は他のカラスが混じっていないかを確認します。ターゲットはコクマルガラスです。ハトぐらいの大きさで、「キョン、キョン」というカラスらしくない声が特徴です。残念ながら今回の群れには混じっていませんでしたが、「いない」ことをしっかり確認することも私にとっては大事なことです。

ミヤマガラス成鳥は嘴根元に羽毛がないため、白っぽく見えるのが特徴。この特徴を一つずつ確認しながら、コクマルガラスを探していく。
ミヤマガラス成鳥は嘴根元に羽毛がないため、白っぽく見えるのが特徴。この特徴を一つずつ確認しながら、コクマルガラスを探していく。

渡良瀬遊水地へ(私の失敗…)

スケッチやカラスの群れを細かくチェックしていると、あっという間に14:00でした。北関東へ来たら、やはり広大なアシ原のある渡良瀬遊水地へ行かないと勿体無いです。夕方になるとアシ原でネグラをとるタカ類の観察をするために、早速移動。しかし、現地到着後に数分で強い風が吹き始め、ATCを載せた三脚が転倒する可能性が高まってしまい、双眼鏡のみでの観察に切り替えざるを得ませんでした。

渡良瀬遊水地の猛禽類観察ポイントの鷹見台。天気予報を事前に確認して、皆さんはぜひ適正な重さの三脚のご準備を!
渡良瀬遊水地の猛禽類観察ポイントの鷹見台。天気予報を事前に確認して、皆さんはぜひ適正な重さの三脚のご準備を!

草原を飛ぶチュウヒ、そしてハイイロチュウヒ!

10分ほど鷹見台で待つと、早速チュウヒが飛びました。この鳥には、これまでたくさん出会ったことがありますが、正面から見ると「V字の飛翔形」は、本当に美しく感じます。

アシ原の上をゆっくり飛翔するチュウヒ
アシ原の上をゆっくり飛翔するチュウヒ

チュウヒの飛翔にウットリしていると、その15分ほど後に、雄のハイイロチュウヒが出現しました。もう少し日没に近づいてから現れると思っていたのですが、不意をつかれてしまいました。常に緊張感をもって出現に備えないといけません。

まさに“灰色”のハイイロチュウヒ雄。翼先端の黒がかっこいい!
まさに“灰色”のハイイロチュウヒ雄。翼先端の黒がかっこいい!

ハイイロチュウヒのスケッチ。風が強くて寒かったので、描けたのは現場ではほんの少しだけ。
ハイイロチュウヒのスケッチ。風が強くて寒かったので、描けたのは現場ではほんの少しだけ。

チュウヒは2回、ハイイロチュウヒは1回

この日は風の影響を受けたのか、チュウヒは2回、ハイイロチュウヒは1回だけの出現でしたが、順光での観察で心から満足できた時間でした。冬鳥の飛来数が少ないと言われている2024-2025年の冬ですが、関東に在住の方であれば、一度は多々良沼と渡良瀬遊水地を訪問されてはいかがでしょうか? ハクチョウや猛禽類が楽しめる素敵な場所ですし、個人的には日没後の夕焼けをバックに飛ぶカワウの群れも鷹見台の大きな魅力だと感じています。

夕焼けをバックに飛ぶカワウ
夕焼けをバックに飛ぶカワウ

最後に

近年、渡良瀬遊水地内ではイノシシが増えているそうです。今回の訪問でも、日没後の鷹見台ではイノシシが現れました。私が見たのはまだそれほど大きくない個体で、何か物音に驚くとすぐに茂みに逃げ込んでいたので、危険を感じることはありませんでしたが、個体数が増加しているとのことなので、観察で訪問される際は、時間を問わず十分注意をしてください。

鷹見台に現れたイノシシの群れ。日没後はなるべく車内へ。
鷹見台に現れたイノシシの群れ。日没後はなるべく車内へ。


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